心貧しいパパラギ
夢の中で、「パパラギ」という言葉を聞いた。何だろう？気になると眠れない。やっと、十五年前の本を思い出した。冬の朝の五時は、まだ暗くて寒い。しかし「パパラギ」が呼んでいるようで、書棚のなかを探し始めた。見つからない。だからその日、書店にでかけて、再ぴ手に入れた。すでに78刷になっていた。
「パパラギ」という本の題名は、ヨーロッパ人（白人）のこと。内容は、「はじめて西洋文明を見た南海の酋長ツイアビの演説集」で、初版は八○年前の一九二○年、ドイツで出版された。日本での初版は1981年。西サモアのツイアビが機会を得て、ヨーロッパを回り、「するどすぎるほど冷静な、先入観に邪魔されない観察力」で、その文化と生活様式に関する正確な知識を集めて西サモアに戻った。
そして、「たくさんの島々のかしこい兄弟たちよ！」とツイアビは静かに淡々と、島の住民に語りかける。
自然に反した生活、言うこととすることが違うパパラギの正体を、ユーモアと痛烈な皮肉を交えながら、しかも、春の海のような、ゆったりとした詩情あふれる演説集である。「きみたちは貧しく不幸せだ。多くの援助と同情が必要だ。何も物を持っていないではないか」とパパラギは言う。はたしてそうだろうか。
この本を再読して、私は粛然とするものがあった。私たちが忘れ去った本物の宝物を「パパラギ」は考えさせてくれる。その一部をご紹介しましょう。
「丸い金属と重たい紙、彼らがお金と呼んでいる、これが白人たちの本当の神さまだ。愛の神について、ヨーロッパ人に話してみるがよい・・・・・顔をしかめて苦笑いするだけだ。考え方が子どもじみていると言って笑うのだ。ところが、ぴかぴか光る丸い形の金属か、大きい重たい紙を渡してみるがよい。・・・・・とたんに目は輝き、唇からはたっぷりよだれが垂れる。お金が彼の愛であり、金こそ彼の神様である」。
「物にはふたつの種類がある。ひとつはヤシの実や、貝や、バナナのように、私たち人間が何の苦労も労働もせず、あの大いなる心が造り出す物である。いまひとつは、指輪や、食事の皿や、ハエたたきのように、たくさんの人間が苦労し、労働をして作り出す物である」。
「物がたくさんなければ暮らしてゆけないのは、貧しいからだ。大いなる心によって造られたものが乏しいからだ。パパラギは貧しい。だから物に憑（つ）かれている。物なしにはもう生きてゆけない」。
「パパラギはいう。『このヤシはおれのものだ』なぜかという と、ヤシがそのパパラギの小屋の前に生えているから。まるでヤシの木を、自分で生やしでもしたかのように。ヤシは、決してだれのものでもない。決してそうではない。ヤシは、大地から私たちに向かって差し伸べたもうた神の手だ。どの木も、どの花も、どの草も、海も空も、空の雲も、すべてこれらは神の手である」。
「時間がない。暇がない」と、いつも時間に不満足なパパラギを、ツイアビ酋長は憐れんで言う。「これは病気だ」。
「自分の歳は知らないほうがずっといい」という彼の言葉に、私は不意を衝かれた。時間の奴隷になってはいけない。ご一読をお薦めします。
| パパラギ |
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シャボン玉友の会だより<No.53> より
