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シャボン玉友の会だより<NO.47>


共生

環境を再生するには、

時間がかかる。

しかし、今始めなければ

人類には明日はない。

坂本龍一

 

他人のことを考える

思いやりと優しさ。

それが環境保護の

原点だ。

森田光コ

十八年目に浮上

森田 坂本さんがシャボン玉石けんを使用された動機は。

坂本 まったく偶然なのですが、一通のファンレターにシャボン玉石けんのことが書いてあったのです。環境にやさしい無添加石けんだと。石けんなんてどれも同じだと思っていたのに、様々な種類があると知ってびっくりしました。それからさっそく、森田社長のご著書も読ませていただき、感銘を受けました。

森田 ありがとうございます。うちの会社は以前、合成洗剤を販売していて、それなりに業績を伸ばして、会社の経営は順風満帆。ただ私自身は、毎年原因不明の赤い湿疹に悩まされていました。たまたま 無添加粉石けんをつくる機会があって、自宅で使用してみました。気がついたのが五、六日目です。湿疹がなくなっていた。そのあと、わが社の合成洗剤を使用したら、一日で湿疹ができて驚きました。これはまずいと悩んだ末に、社員全員を集めて「今後は無添加石けんだけをつくる」と宣言。二十五年前です。

坂本 社内の反応はいかがでしたか。

森田 役員、社員みんな猛反対で実際、無添加石けんを持ってスーパーや問屋を回ったのですが、売上は一割どころか一%まで落ち込み、社員も続々と辞めていく毎日。しかし、やがて世界がこういうものを求めるようになる、と 信じていました。朝から晩まで働きましたが、十七年間はずっと赤字の連続でした。「桃栗三年柿八年」といいますが、「シャポン玉石けんは十八年」(笑)。

坂本 よく持ちこたえましたね。浮上のきっかけは何ですか。

森田 湾岸戦争による海洋汚染。それと私の『自然流「せっけん」読本』(農文協)この読者がシャポン玉ファンになり愛用者になりました。人は「苦労したね」と言ってくれますが、私にはその実感はありません。最初から「これで儲けよう」という発想はなく「健康な体ときれいな水を守るという使命感だけでした。 全国各地に年間百回以上の講演に行くのも、石けん運動家としての自覚からです。

化学物質の二十世紀

森田 九月のオペラのテーマは「共生」ですね。

坂本 ある徴生物学者の本によると、単細胞だった徴生物が何十億年もの間に変化する環境に対応し、合体を繰り返しながら多細胞生物へと進化を遂げてきた。そうやって唯乳類(ほにゅうるい)なども誕生したというのです。これを知ったとき、目からウロコが落ちる思いがしました。つまり、徴生物は「共生体」なのだと思ったのです。今進んでいる地球環境の悪化は、人間にとっては危機的な事態です。が、うまく共生し ながらしたたかに進化し続けてきた微生物は、まだまだこの地球上で生きていけるのではないか。そう思ったときに、少し気持ちが救われたのです。これが「共生」をテーマに選んた理由です。そもそも、我々のからだ自体が徴生物の共生体ですよね。皮膚にだって腸にだって口の中にだって徴生物がいる。それを殺菌することは、いわば自殺行為だと思うのですが。

森田 そのとおりです。最近の抗菌剤や殺菌剤の氾濫(はんらん)も困ったものです。人間の免疫力をなくしてしまう。シャポン玉石けんは除菌はしますが、殺菌はしません。

「共生」は一種の戦争だ

坂本 ぼくは去年、オペラの取材のためにモンゴルヘ行ってきました。そこで見たものは、想像していた大草原とはかなり違いました。非常に土壌がやせているのです。だからここに住む人は、農耕をしない。かろうじて生えている草を家畜に食べさせて、彼らの肉からビタミン類を摂取するのです。わずかな草を求めて必然的に遊牧民になり、遊牧には 広大な土地がいる。こうした諸条件が重なり合う中で、彼らは自然とともにギリギリの共生生活をしているんです。ふと考えたのですが、こうした貧しい土地で生きていく暮らし方は、将来全人類に課せられるのではないか。化学物質を大量に放出したために、空気も水も土壌も汚染されつつあります。今後も地球上で生きていたいのなら、かなり真剣にリサイクルなどしてギリギリの共生生活をせざるを得ないと思うのです。モンゴルに行って、地球を振り返った気がしました。

森田 「共生」いう言葉は、今は誰でも使うでしょう。「地球にやさしい」とか「人にやさしい」とか。でも、痛みのない共生というものはない。「みんなで仲良くしようよ」みたいな甘ったるいものではない。やっぱり命がけですよ。

坂本 ぼくも「共生」は一種の戦争だと思います。化学物質は膨大だし、目に見えないから気がつかない。しかも、一度ばらまかれてしまったら、大気と同じで国境がありませんから、地球土に広まってし まいます。自分が悪いことをしていなくても、隣が有害物質を流していたら被害に遭ってしまう。甘ったるい話ではないのです。

森田 極端なことをいうと、環境問題を解決するためには人間がいなくなるのが一番です。人間がいちばん悪いのですから。ほかの生物は、何も悪いことをしていません。

坂本 人間の責任で人間の子孫の免疫力が落ちると言うのは、ある意味では自然の摂理に合っているともいえますね。むしろそうなったほうが、地球にとっていいことかもしれない。けれど、自分の子供の免疫力が弱まると考えたら、悲しいですよね。そういう矛盾はあります。

終末の光か、希望の光か

森田 今の日本人の多くは、自分のことしか考えていません。環境問題もそうなんです。排気ガスを出したら、あるいは化学合成物質を流し続けたら、やがて人に迷惑がかかるという意識がまったくない。もっと他者のことを考えるという意識を持たなければ、いくら法律を整備してもダメでしょう。

坂本 何十億年もかかって進化してきたのに、今世紀に人間のせいで絶滅してしまった生物は無数にいます。これは本当に、全人類の連帯責任だと思います。ただ、それを一ミュージシャンが訴えても説得力に欠けます。そこで今度のオペラでは、著名な科学者や思想家、宗教家などからメッセージをいただいて、それを広く伝えるのがぼくの役目です。ただし、「こうすれば救われます」という解決策はだれも持っていない。まずは、私たち一人一人が意識を変えなければ。

森田 結局、理想を並べたり、だれかが「こうしなさい」と言ってもあまり意味がない。やはりおのおのが、まず自分のできることから始めることです。

坂本 これだけ破壊されたものを再生させるのは、時間がかかるでしょう。しかしやっていかなければ、人類に明日はないと思います。オペラでもそうメッセージするつもりです。オペラ最終章のテーマで ある「光」は、悲観的に見れば「終末の光」と解釈できます。しかし、「希望の光」と受け止めることもできるのです。見る側の意識しだいです。

森田 私と坂本さんは、方向性が同じですね。

坂本 今度のオペラが森田社長やぼくたちの目指す「共生」というものを提示し、人々に考えてもらえる一つのきっかけになればと願っています。

※五月十八日付朝日新聞朝刊より転載致しました。  

サカモトリユウイチ
一九五二年東京都中野区生まれ。
七十四年、東京芸術大学大学院音響学科に進学し、電子音楽、民族音楽を研究。修士課程終了後にYMOを結成、世界中の注目を集める。以後、映画音楽、ライプ活動、プロデュースなど、世界を舞台に活躍中。四十八歳。
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